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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)9号 判決 1954年1月28日

横浜市鶴見区矢向町七三〇番地

中島トシ方

上告人

中島清二郎

右訴訟代理人弁護士

岸野順二

静岡県駿東郡小山町湯船町二九番地

被上告人

池谷善雄

右訴訟代理人弁護士

富樫久吉

右当事者間の売買代金返還並びに損害賠償請求事件について、東京高等裁判所が昭和二四年一二月一七日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があり、被上告人は上告棄却を求めた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

本件において被上告人は、本件売買の売主は、上告人及び第一審における共同被告片山三郎の両名であると主張し、上告人はこれを否認して売主は上告人単独であると主張する。そして、上告人は免責的債務引受契約が成立したと抗弁し、被上告人はこれを否認している。原判決は、本件売買の売主が前記両名であるか上告人単独であるかの争点については、殊更判断をなさず、免責的債務引受契約の成立を否定すると共に、重畳的債務引受があつたことを認め、これによつて前記両名の間に連帯債務が成立するものとして、第一審判決が連帯債務を認めたのを是認した。しかし、この重畳的債務引受の事実については、被上告人及び上告人の両当事者の何れからも、何等主張がなかつたのであるから、原判決には当事者の主張せざる事実に基いて判断し連帯債務を認め、以て第一審判決を維持した違法があり、この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。それ故に、本件上告は結局理由があるから、上告理由の一々について判断するまでもなく、原判決を破棄し原裁判所に差戻すを相当とする。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

昭和二五年(オ)第九号

上告人 中島清二郎

被上告人 池谷善雄

上告代理人岸野順二の上告理由

第一点 原判決は「被控訴人の妻池谷和子が被控訴人の代理人として片山三郎に対し本件代金の返還方を請求し同人の承諾を得」片山より内金三万五千円の返還を受けたことを認定しながら上告人主張の免責的債務引受契約を排斥したるも然らば被上告人は如何なる法律原因に基き片山に対し返還請求をなし一方片山も如何なる法律原因に基き返還をなしたものであるかに就いては単に「控訴人の指示に基いてなしたもので」と判示した。然し指示(法律用語ではない意味頗る不明確)しただけで是等の法律原因ありと云うことは出来ない、即ち理由不備の違法あり。

第二点 原判決は売渡行為が商行為であるから返還義務も商行為である従つて上告人は片山と連帯責任ありと判示した。然し片山のためにも商行為と認定するには日本農薬株式会社元売捌所(原判決は該元売捌所が売買の当事者なりと認定した)が片山と上告人の共同経営であることを先づ前提として認定しなくては出て来ない議論である。然るに原判決は共同経営なりや否や従つて売主が上告人のみなりや片山と両名なりやは争あるが其の関係は「暫くこれをおき」と判示し何等判断するところなきは審理不尽又は理由不備の違法あり。

第三点 免責的債務引受契約も亦重畳的債務引受契約もその典型的のものは債権者と新債務者間に或は債権者と新旧債務者間に成立するものであるが、新旧債務者間の免責的債務引受の合意を後日債権者が承認したとき其の合意及承認の法律的効果を否定し之を無効とすべき法的理由は毫もない。

原判決は上告人の抗弁に就いて債権者たる被上告人が上告人と片山との合意に当事者として関与しなかつたから免責の効果が生じたものということが出来ぬと判示しながら、寧ろ重畳的債務引受と認めるを相当とすると認定した。然し被上告人が上告人と片山との合意に当初当事者として干与しなかつたことに於ては同一なれば重畳的債務引受と認定したのは矛盾と云はざるを得ない、即ち原判決は法律の解釈を誤りたるの違法あるか又は理由不備の違法あり。

以上

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